1992年11月28日

【橋本英二 プロフィール】
 東京生まれ。東京芸術大学音楽学部にてオルガン、シカゴ大学院にて作曲と音楽学、イエール音楽大学にてチェンバロを専攻、卒業。   一時、桐朋学園音大で教鞭をとったが、フランス政府に招かれパリに滞在。その帰途アメリカを演奏旅行中、シンシナティ音楽大学から招聘され、1968年以来同大学においてチェンバロ教授及びアーティスト・イン・レジデンスの地位にある。演奏活動は、日本やアメリカ中はもとより、ヨーロッパからアジアにいたるまでの世界各地で、毎年30回から40回以上行っている。  1978年と81年には文化庁芸術最優秀貰を受賞、1987年以来 Ohio Arts Council、1990年以来Arts Midwestの助成金を受けている。編纂楽譜の出版やレコード・CDも多く、室内オーケストラの指揮者としても、活発な活動を行う。又、先にも述べたようにスカルラッティの研究者でもあり、1993年には新たな編纂楽譜が英国から、そしてCDがアメリカから出板された。
く解説と曲目〉
☆フランソワ・クープラン(1668−1733)
18世紀の最初の1/3世紀頃に、クラブサンによって自己表現した芸術家はたくさんあったが、クープランの独自性には特別なものがある.自然や市井、宮廷などが彼のインスピレーションの源であったが、それらが作品の中に非常に詩的に織り込まれているのである。宮廷人であったという点では、バッハやヘンデル、スカルラッティなどの在り方と似ている。しかし披には、ヘンデルの威厳はなかったし、バッハの多声の連続や、対位法の複雑さもなかった。更にスカルラッティの  名人的技法も華やかさもなかった。彼の作品は知識人としての自己表現からは程遠く、夢と空想による一瞬のヴィジョンで語りかけるが如きであった。すなわち、被の独自性の在り方というのはあまりにクラブサンと一心同体になっているため、被の作品はピアノでは演奏不可能に近いという際立ちようである。これは、バッハ・ヘンデル・スカルラッティ等には起こらないことである。
(演  目)第18番の組曲 へ短調より ヴェルネヴィユ夫人 修道尼モニク ヴェルネヴィユの娘 同  情 テイク・トク・ショク

☆ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685−1750)
 バッハの作品の殆どは手書きの楽譜のままで残され、生存中は出版されなかったが、僅かに4巻から成るClavierUlbung(鍵盤楽器のための練習曲)は、自身の手によって1730年代に出版された。その第一巻は6曲のパルティータ(組曲)で、作品1として1731年に発行された。この第6番は壮大なトッカータ(実際は前奏曲とフーガ)に続いて瞑想的なアルマンド、イタリア風の早くて流れるようなコレンテ、声楽曲のようなエア、気位の高いサラバンド、些かおどけた  ガヴォット、そして熱っぽいジーグ(後半のテーマは前半のテーマを逆にひっくり返している)等様々の舞曲を紹介しながらバッハらしい込み入った対位法、難しい演奏技術、そして何よりもまずすばらしい芸術性を披露している。
(演  目)パルティータ第6番 ホ短調 BWV830より トッカータ エア ジーグ アルマンド サラバンド コレンテ ガヴォット

☆カール・フイリップ・エマニュエル・バッハ(1714−1788)
C.P.E.バッハは大バッハの2番目の息子にあたり、ライブチッヒ、フランクフルトの大学で法律・哲学を学んだものの、音楽への執念やまず、ベルリンの笛の名手フレデリック大王の宮廷でチェンバロ奏者として活躍した。彼の作風は父のものとは異なり、ドイツ18世紀半ばに芸術界を風靡したEmpfindsamkeit( 繊細な感情表現)とStrum und Drang(嵐と猛り)の表現を強く示している。この幻想曲(1784年作)もこうした感情表現に充ち、華やかな技巧典示、劇的な休止を伴って効果を高めている.18世紀末だけに、こうした曲は新しく普及し始めたフォルテピアノの為に作曲されたのだが、クラヴィコードやチェンバロでの演奏も可能なわけである。
(演  目)幻想曲 ハ長調

☆ドメニコ・スカルラッティ(1685−1757)
 スカルラッティはまさに18世紀のショパン、つまり鍵盤楽器の音楽に没頭して、その機能・演奏技術・表現法を大きく拡げた作曲家であった.彼は母国のイタリアを若年にして去り、ポルトガル スペインで活躍、驚くほどの独特の演奏技巧、作風を確立したものの、現在でも多くの謎を残している。いったい誰の影響を受けて、斯様に新しいテクニックをチェンバロにもたらしたのか不明であるし、彼自身の楽譜がまったく現存しないのも不思議である。そればかりでなく、当時書き写された楽譜の多くは、誰の筆によるのかも不明のままである。とはいえ、550曲以上のソナタは珠玉の集まりで、演奏者である橋本氏は30年以上スカルラッティを追い続け、文献やレコードの出版を重ねている。
(演  目)ソナタ 変口長調 K.248  ソナタ ト長調 K.454  ソナタ 変口長調 K.249 ソナタ ト長調 K.455



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